2024年10月2日、第42回電気通信市場検証会議が行われ、いわゆる「スマホ割引規制」の見直し案に関する資料が公表された。
2023年12月27日に施行された新しい電気通信事業法施行規則にまつわるルール変更が検討されており、今後通信キャリアが販売するスマートフォンの価格変動も予想される。本記事では、公開資料の内容を確認するとともに、消費者視点での影響を考察する。
「スマホの価格」に関する3つの規制変更
今回「スマホの価格」に関して、以下の3つ論点が議論された。
- 買取等予想価格の算出ルールの統一化
- ミリ波対応端末の割引上限額緩和
- 不良在庫端末特例の見直し
買取等予想価格の算出ルールの統一化
2024年現在、スマートフォンをおトクに入手する方法として定番なのが、端末購入プログラムを用いた実質レンタル方式だ。通称「返却プログラム」とも言われ、端末を割賦購入した上で一定期間後に返却した場合、残りの支払いが免除される仕組み。
現状、支払免除となる残価相当額は、中古市場や先行同型機種の価格推移を基に各キャリアが決定している。電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドラインにより公表が求められているものの、その価格自体の決定に際してキャリアによる裁量が大きく、利用者の負担を過度に抑制するような価格に設定しているケースも少なくない。
例えば、各社が公表するiPhone 16 128GBモデルの25ヶ月目における買取等予想価格は、以下のようなバラつきがある。
また、頻繁に予想を変更していることから、少しでも多くの実質的な値引きを提供するため、恣意的な価格決定をしていると推測される。これらは規制の潜脱行為に繋がりかねず、趣旨を逸脱することから、買取等予想価格の算出ルールを統一化する必要があるというわけだ。
買取等予想価格は、端末販売価格×残価率で求められるが、うち残価率に関して業界団体が公表した値を利用するようになるとのこと。
ミリ波対応端末の割引上限額緩和
現行規則における端末割引等の利益提供上限額は、段階的に最大税抜4万円となっている。
端末価格 | 割引上限(税抜) |
---|---|
4万円未満 | 2万円 |
4万円~8万円 | 価格の50% |
8万円以上 | 4万円 |
新たな枠組みでは5Gミリ波対応端末に限って上限を引き上げ、時限的ではあるが最大税抜5.5万円(税込6.05万円)まで値引きできるようになる。
ミリ波端末 | 5.5万円 |
コストの掛かるミリ波端末の入手ハードルを下げることで、事業者側のミリ波への設備投資を促す狙いがあるという。
不良在庫端末特例の見直し
不良在庫端末特例の見直しとは、端的に言えば古い端末の値引き規制緩和だ。
現状では、製造中止の有無により割引可能額が異なる。特例見直し後は、最終調達日の経過日数に応じて、最大で定価まで値引きできるようになる。
最終調達からの経過日数 | 割引上限 |
---|---|
12ヶ月 | 半額 |
24ヶ月 | 定価の8割 |
36ヶ月 | 定価まで |
不良在庫の処分を容易にすることが目的であるため、端末購入プログラムとの併用は不可。
消費者視点での影響を考察
スマホ割引規制の一部改正案を踏まえ、今後スマホの入手価格がどう変化するのか考察する。
レンタル価格は値上げの可能性あり
先に述べた通り、2024年現在のスマホの買い方は、端末購入プログラムによる実質レンタル方式が主流となりつつある。そんな中、7月にはSoftBankがiPhone 15 Proの残価を185,724円に設定した上で、1年間月々3円で販売し、話題となった(※現在は終了済)。
買取等予想価格の算出方法が統一されれば、こうしたアグレッシブな残価設定を基に行われる特価販売は不可能となり、結果として実質負担額が今よりも上昇する可能性がある。
ミリ波の普及要因になるとは思えない
ミリ波対応端末の割引上限額緩和については、普及要因になるとは到底思えない。
WGでの課題に挙げられている通り、現状で5Gミリ波(28GHz帯,n257)対応端末は限られている。税抜1.5万円追加で割引できるようになったところで、限られた選択肢の中から比較的高額なミリ波端末を消費者がわざわざ手に取るだろうか。
エンドユーザーの反応がなければ、当然メーカーや通信事業者がコストを掛けてまでミリ波に対応させるインセンティブが働かない。
ミリ波の普及においては、日本においてとりわけ高いマーケットシェアを占めるiPhoneの対応が不可欠であり、この程度の規制緩和で好循環が生み出されるとは考えづらい。
5.5万円の値引きはハイエンドモデルを中心に現状よりも多少安く購入できるというメリットにとどまり、影響は軽微であると筆者は予想する。
型落ち端末の一括投げ売りが復活?
「端末を安く入手する」という観点で最も影響を及ぼすのは「不良在庫端末特例の見直し」だと思う。
例えば、最終調達から2年が経過した10万円の端末が2万円で販売されれば、インパクトは絶大だ。
通常、キャリアはメーカーから一定期間納入を続けるため、実際には3~4年落ちのモデルがこの特例の対象となるだろう。
また、発売後早い段階で一括で端末を仕入れた上で早期に大幅値引きするスキームも思いつく。あくまで不良在庫の処分が目的であることから、潜脱的な値引きに利用されないよう細則で塞がれる可能性はあるが、高価な過去機種がより安価に入手できる機会は確実に増えるだろう。
2023年末規制強化前の「一括投げ売り」を彷彿とさせる超特価に期待したいところだ。
参考:
電気通信市場検証会議(第42回)会議資料 - 総務省
競争ルールの検証に関するWG報告書2024概要(令和6年10月) - 総合通信基盤局
アイキャッチ画像:
競争ルールの検証に関するWG報告書2024概要 p.6